振り向かないで

振り向かないで

ケビンはその手を無視して


 病院で熱を測ると39℃もあった。


 昨日から全然下がってない…


「先生!何とか少しの時間でも下げてください」


「こんなに熱あるんだから、安静にしてなきゃどうなっても知らないよ!」


「安静にしていられないんです。楊婉儀幼稚園


お願いします!終わったら何日でも安静に寝てますから」


「とりあえず、点滴して、熱覚ましの坐薬しか方法はないね!だから、この前から安静に


しろって言ったのに」医者は怒っていた。


「すみません…先生」


「全く、君はいつも無理し過ぎだよ住宅搬運服務!若いからって、無茶してたら大変な事になるよ!」


ユノは焦っていた。このままではフラフラしてダンスどころではない…何とか少しでも下


がってくれたら…


 点滴をして、坐薬を入れて、兌換港幣病院を後にした。


本番まであと4時間


舞台ではすでに他のメンバーのリハーサルが始まっていた。


「おはようございます。すみません遅くなって!」ユノは他のメンバーやスタッフに謝っ


て回った。


 最近ようやくユノの実力を認め、打ち解けたアメリカ人メンバーやスタッフは笑顔でユ


ノの肩を叩き、「大丈夫!OK!頑張ろう!」と答えてくれた。


 そして、やたらとボディータッチしてくる黒人のプロデューサー ケビンもユノの両肩


を揉みながら


「ユノ、熱があるんだって?大丈夫かい?」と聞き、後ろからおでこに手を回して、


「まだ熱いじゃないか?…」と言った。


ユノは「大丈夫です。病院で注射打ってもらったので、すぐに下がってくると思います!」


そう言いながらくるりと踵を返し、距離をあけた。


 リハーサルに加わったユノは初めの間は体が重く、フラフラして思うように動けなかっ


たが、繰り返すうち、いつものキレが戻り、調子が上がっていった。


本番まであと2時間



 控え室で待機するメンバー


 そこへチャンミンとミノがやってきた。


「おはようございます、お疲れ様です」


他のメンバーに挨拶をして、二人はユノのそばに近寄った。


「ユノヒョン、どうです?熱は下がりましたか?」そう言いながら、チャンミンは思わず


おでこに伸ばしそうになる手を引っ込めた。


ミノも心配そうに


「ユノヒョン、大丈夫ですか?」と声をかける。


「あー二人共ありがとう。寒いのに来てくれたんだな。大丈夫だよ、薬が効いてきたのか


下がったみたいだ」そう言って、ユノはガッツポーズをした。


 3人で話している所へ、ケビンプロデューサーがやってきて


「ユノ…こちらは?」と二人を見て聞いた。


「あ!ケビンさん、東方神起メンバーのチャンミンとシャイニーのミノです」


二人は順番に「チャンミンです」「ミノです」と言いながら、ケビンと握手をした。


「へ~チャンミンっていうのは、君だったんだー、…フ~~ン  またよろしくね」


そう言うとケビンはユノの頬に手を当てて、「熱下がったかい?」と聞いた。


ユノは咄嗟に身を引き「大丈夫です!!」と強い口調で言った。


 ケビンは肩をすくめてその場を立ち去った。


 チャンミンはその様子を見て、カッと熱くなり、背筋がゾクッとした。


 ユノは目を逸らすチャンミンに気づき、チャンミンの左手をとり、


「チャンミナ、もう大丈夫。ちゃんと約束守るから」


 そう言って、チャンミンの左手にある指輪を回した。


 チャンミンはそばにいるミノを意識して、ユノの手を軽く握り返して、すぐに離した。


 軽くうなづき、「ええ…頑張ってください、ヒョン」


「じゃぁ僕らは客席から応援しています」


このまま側に居たい…側でヒョンを支えていたいのに…そんな想いを断ち切るように控


室を後にした。


「ユノヒョン大丈夫ですかね?…まだ辛そうでしたよね?それにあのいやらしー目でユノ


ヒョンを見てた、プロデューサー…あれ、やばいですよね…完璧ユノヒョン狙われてます


よね」


 ミノは何も知らずにチャンミンの気持ちを逆なでするような事をグサリと言った。


「あーやっぱり、おまえもそう思った?」チャンミンはそう言いながら自分の気持ちを落


ち着かせようと、左手の指輪を触った。


本番 直前


 ユノは舞台そででいつものように、十字を切った。


「誰も怪我する事なく、ステージが無事に終わりますように」


あまり下がっていないであろう熱も、今のユノには関係なかった。


 広い会場に集まった沢山のファンをそでから見渡し、全神経を集中し、モチベージョン


をあげたユノには、もう何の不安も迷いもなかった。


「頑張るよ!チャンミナ」左手薬指にキスをした。


ドドーン!! 大音量のバンドの演奏が始まり、


キャー    ファンの悲鳴にも近い歓声が響き渡った。


 マイケルジャクソンの衣装を身にまとい、輝くばかりのオーラと共にユノが登場すると


歓声は一際高くなり、会場は興奮のるつぼと化した。


 ユノのパフォーマンスは完璧だった。


 一挙手一投足に観客が泣き叫ぶ。


 チャンミンはその様子を肌で感じ


「ヒョン、良かった…  頑張った甲斐があったね…みんなにこんなに喜んでもらって…


僕も早くステージに立ちたいよ…」そう思いながら、無意識にずっと指輪を触っていた。


ミノが「チャンミンヒョン、その指輪よっぽど大事なものなんですね?さっきからずっと


それ触ってますよ」


「え?」パッと指輪から手を離し


「…いや…そんな事はないんだけど、ちょっと触るのがくせになってて…」


しどろもどろに答えるチャンミンを気にせず、ミノは


「それにしてもユノヒョンのパフォーマンスは最高ですね!ほんとに熱あったんですか?


信じられませんね」興奮した様子で言った。


「ああ、39℃はあった…  もしかしたら、それ以上に上がってたかもしれない」


 チャンミンは昨日の夜抱きしめて眠ったユノの体の熱さを思い出した。


 一分の隙もミスもなく、ユノのステージは終わった。


 観客は興奮で涙している。


 スタッフ、メンバーも熱があるのにも関わらず、普段通りのいやそれ以上のパフォーマ


ンスだったことに感激し、賞賛の拍手を送った。


「皆さん、ありがとうございました。そしてご心配をおかけしてほんとにすみませんでし


た。こうして無事にステージを終えられたのは、皆さんのご協力によるものです。本当に


ありがとうございました」


 そう言って、深々と礼をし、皆に感謝の気持ちを表すユノに、スタッフみんなの拍手は


やまなかった。


 シャワーを浴び、着替えて出てきたユノを待っていたのは、ケビンだった。


 一瞬ドキっとしたユノだったが、一応彼のおかげでここまで出来た事もあり、


「ケビンさん、ほんとにありがとうございました。成功できて良かったです」握手を求め


た。


 ハグをしてきた。肩を叩き、


「いやーほんと良かったよ!最初はこんな奴に何が出来るんだ!なんて思ったけど、君に


声をかけて正解だったよ!!また一緒に仕事しようじゃないか」


「はい、ありがとうございます」


「ユノ、今日はまだ熱もあるだろうから、今度飯でもどうだい?君の可愛いチャンミンも


一緒に」